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第1回・データがあれば… 衝突実験は「変化の兆し」
本文・運転中のけが 女性は男性の1.45倍
写真特集・運転中のけが 男女差の推移は?
「衝突試験のダミーは、ろうようダミ女性や高齢者など多様な人々を適切に代表しているとは限らない」
米会計検査院は2023年、ダミーの不備をこう指摘し、適切な対策をとるよう運輸省に勧告した。
検査院が勧告の根拠としたのは、運輸省がまとめた男女の死傷リスクに関する二つの研究だ。
13年の研究では、1975~10年に同様の条件で発生した衝突事故を分析した。運転席または助手席に座っていた人の死亡率を男女で比べたところ、女性の方が17%(推定値、以下同)高くなった。負傷率も女性が男性を胸で26%、首で45%、腕で58%、脚で80%上回った。
Advertisement22年の研究では、15~20年に製造された車での男女の死亡率を比較し、女性の方が2・9%高いと指摘している。近年でも女性の死傷リスクの高さは変わらない。
なぜ死傷率に性差が生じるのか。
検査院は運輸省の分析などを引用し、「男性に比べて女性は身長が低い。シート前方に座る必要があるため、車の前方に脚が近付くことになり、脚の負傷リスクを高めている」「女性は男性に比べて骨が弱く、(頭の大きさに比例して)首が小さい」と男女の違いに言及する。一方で「研究が不足しており理由が分からない」とするメーカー関係者らの声も紹介している。
検査院は、ダミーの性能に着目した。00年代に入り、運輸省が衝突試験の一部で運転席への女性ダミー使用を義務付けたところ、女性の負傷率が下がったとする研究があったためだ。
ダミーは50年代に誕生し、「男性優先」で開発が進められてきた。長く、成人男性の平均的な体格に合わせたダミーが使われてきた。
80年代には一部の研究者が女性の平均的な体格を考慮したダミーを作ることを提唱したが、立ち消えになった。
米国では現在、運転席に男性と女性の計2種類のダミーが用いられているが、検査院は今も残る課題を報告書で指摘する。
一つ目はダミーの大きさ。男性ダミーは成人の平均に合わせて作られているが、女性ダミーは平均よりもかなり小さい。これは、二つのダミーの間に位置する体形の人を、広く保護できると考えられていたためだ。だが、自動車安全の専門家で男女差研究の第一人者でもあるスウェーデン国立道路交通研究所のアストリッド・リンダー教授は「女性の負傷リスクの方が高いことが分かった現在、男女ともに平均的なダミーをそろえれば、男女それぞれの安全性を詳細に見極められる」と語る。
二つ目は形状だ。報告書は「女性ダミーは基本的に男性ダミーの縮小版。男性に比べて筋肉量は少ないほか、重心が低く、腰の幅も広いといった女性の一般的な生理学上の違いを反映していない」とする。
他にも、女性の負傷率が高い脚のデータを収集するセンサーがない、といった課題を挙げている。
ただ、より高性能なダミーの開発では今も、男性ダミーが先行している。運輸省関係者は、検査院の調査に「死者の大多数を男性が占めていたから。小さな女性ダミーに合わせて、計器やセンサーを修正するのも難しい」と語ったという。
運輸省は、02年には女性が事故で脚を負傷しやすく、長期的な障害を負う危険性が高いことを把握していた。検査院は「20年前に女性のリスクが高いことを認識していた運輸省の対応は不完全」と改善を求めている。
見直しに向けた動きも進みつつある。
スウェーデンでは、国立道路交通研究所が大手自動車メーカー「ボルボ」などと共同で、これまで存在しなかった平均的な女性ダミーの開発を進めている。既に試作品はできており、ボルボ社では実際に使った試験にも取り組んでいるという。普及すれば、衝突試験と負傷リスクの性差に関連があるかどうかが見えてくるのか。リンダー教授は「10年後のデータを見れば、説明できるでしょう」と話す。【堀智行、西本紗保美、大野友嘉子】
【時系列で見る】
車の衝突試験、ダミー人形は「男性目線」 海外で見直し求める声
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